キーケースクロエメンズ
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null あ……はい。  しょんぼり。  その電話を受けた秘書の南山さんが、もう必要はないですねと、電話のわきにセロテープではってあったFAXの出演依頼をビリッと取って、ポイッとゴミ箱に捨てた。  その間、わずか0・8秒。  自分では、なかなかこうはいかない。  人がいるっていいなと思った。 [#改ページ]   美人考[#「美人考」はゴシック体]  ある日曜日、昼下がりに家を出て、万年クリスマスのようなイルミネーションのカフェ・デ・プレの前の坂を降りていくと、向こうから美人が歩いてきた。  ベロアのノースリーブのワンピースを着て、ショールを巻いて、しゃんなりしゃんなりと歩いてきた。  むむむっと思って顔を見ると、顔も類《たぐい》まれな美人だった。 「おおっ、美人」と思って、同行者である夫に「今の美人だったね」と言うと、夫もいつになく興奮気味に「ああっ」と言った。  私が今住んでいるのは広尾で、前住んでたのは青山である。広尾も青山も美人が多いが、広尾のすごいところはタレントでも何でもないのに一般人の美人が多い、という点である。青山の美人はモデルさんだったりするので、当たり前といえば当たり前だ。  しかし、美人とは、美人の雰囲気をかもしだしているもんだ。オーラと言ってもいい。  よく、美人なのに気取らない、などと江角マキコさんなどが言われて、みんなその真似をするが真似できるのは「気取らない」の部分だけで、「美人なのに」にポイントがあることに、なかなか気がつかない。ただ、普通の人が「気取らない」だと「気取らない」とさえ言われない。美人だからこそ、気取らないと言われるのであって、普通の人が気取らないのは当たり前なので、別にエラくもなんともないんである。