ミュウミュウスタッズリボン
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null 観客の間に、異様なざわめきが生じはじめた。侮りの声ではない。皆、一様に驚きの表情で空の一点を凝視している。  ぱ、ぱ、ぱ、と中空に明滅する赤い輝き。  観衆の全員が、視線を一カ所に固定させている。  エルフェールの花火が、その位置からほとんど動かなかったからだ。連続して赤系統の光を放ち続ける球体は、夜空に同化してしまったかのようにゆったりとその場に漂っている。  観衆のざわめきがさらに高くなった。 「…おいおい、いったいどうなってるんだ」  そんな声があちらこちらから上がっている。いかなる仕掛けによってこのような現象が生じているのか、想像もつかない様子だった。  その観衆を上から眺めているように、花火はあくまでゆるやかに光を放ち続ける。  あの巨大な折り畳み傘のような飾り物——  それは、回転翼を畳みこんだものだった。  回転翼の発想は、エルフェール独自のものではない。面接の日、ネルにはじめて見せてもらったあの竹トンボ。それを応用した仕掛けだった。  折り畳まれていた回転翼は、降下する際の空気抵抗によって自動的に開く。そして水気力モータ—が花火の内核部からエネルギーを吸い出し、翼を回転させ、揚力を得る。一〇日で加工するのはたいへんだったが、それほど複雑な機構の仕掛けではない。  断続的に光を生む仕掛けについては、構造的にさらに単純だ。殻の厚みをさまざまに変えた小さな球殻を、外核部にいくつも詰め込んだだけなのだ。厚みの違いによって炸裂までの時間差が生じるので、次々と光がはぜるように見える。こちらは、昔からよく使われている技法だ。  アイデアの原点は、ネルの故郷のことを調べていたときに偶然知った『線香花火』だった。暗い光を少しずつ放って、最後に朽ちていくあの控えめな花火。赤系統の光しか実現できない、となった時、エルフェールの頭に浮かんだ発想がそれだった。  光の間隔が、広がりはじめた。  その弱りゆく鼓動は、死に瀕した心臓にも似て、寂しさやわびしさの思いを見る者の心に刻み込む。  それはオリジナルの線香花火と同じ独特の翳りを持つていた。まして、力押しの輝きを見せられた直後だったから、なおさら観客に与えた印象は強かった。  一瞬で消えゆく花火が、本来その特性として内包しているはずの哀しみ……それが、この弱々しい花火からは他のどんな作品よりも強く感じられる。