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ポールスミス長財布編集

 私はよく一人旅に出る。四〇年らいそうしてきている。結婚してからも変らない。子供が生れてからは、なおのこと変らない。  女房も、亭主は一人で旅に出るものと思っている。 「今晩から出かけるぞ」 「いつ帰るの」 「まだわからない」 「あ、そう」  それだけである。行先きを訊《たず》ねもしないから、留守中に電話がかかってきても、 「旅行中です」 「いつお帰りですか」 「わかりません」 「どちら方面へ旅行ですか」 「おとなになったら何になりたいか」  と先生がきく。いっせいに手があがり、当てられた子がつぎつぎに答える。陸軍大将、総理大臣が断然多く、軍人とか大臣、あるいは博士と答える子も多い。  昭和一一年か一二年、私の小学四、五年の頃のことである。そういう時代であった。  大将、大臣と答える子は概して平凡なサラリーマンの子弟で、医者や教師の子は父の職業を挙げるようであった。「大審院の裁判長」と答えたのが地裁の判事の子、「日本郵船の社長」と具体的なのが、その副社長の息子であったことなど、記憶に残っている。  なかには茶目か本気か、あるいは言葉がもつれたのか、
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